「デュワーズ蒸留所紀行」
デュワーズ蒸留所紀行
ハイランドが育む黄金のブレンド
スコットランド・ハイランド地方の緑深い谷間で、1846年から続く伝統の調べが響く。
ジョン・デュワー一族の夢が結実したアバフェルディ蒸留所を訪ね、
世界中で愛されるブレンデッドスコッチウイスキーの源流を辿る旅路へ。
黄金の調和を求めて
スコットランド・ハイランド地方の古き良き町パースに、一人の青年の夢が芽吹いたのは1846年のことであった。ジョン・デュワーという名のその青年は、農家の息子として生まれながらも、いつしかウイスキーの世界に魅了され、小さな酒商として歩みを始めた。
それから半世紀余り。彼の息子たち、ジョン・アレクサンダーとトミーが受け継いだ情熱は、ハイランドの美しき谷間に一つの蒸留所を生み出すこととなる。1898年、アバフェルディ蒸留所の誕生である。この蒸留所こそが、世界中で愛される「デュワーズ」ブランドの心臓部となり、ブレンデッドスコッチウイスキーの新たな章を開くこととなった。
創業者たちの物語
ジョン・デュワー(1806-1880)
パース州の農家に生まれたジョン・デュワーは、21歳でパースの街に出て小さな酒商を開業。当初はワインやスピリッツを扱っていたが、やがてスコッチウイスキーの可能性を見出し、ブレンデッドウイスキーの世界に足を踏み入れた。彼の商才と品質への拘りが、後の「デュワーズ」帝国の礎となった。
息子たちの飛躍
ジョン・アレクサンダーとトミー・デュワー兄弟は、父の事業を世界的ブランドへと押し上げた立役者。兄のジョン・アレクサンダーは1898年にアバフェルディ蒸留所を設立し、弟のトミーは1891年のニューヨーク訪問でハイボールの原型を生み出すなど、革新的なマーケティングで世界市場を開拓した。
年表:デュワーズの歩み
アバフェルディ蒸留所の製法
清冽なる水源
蒸留所のすぐ傍を流れるピティリー川の清らかな水を使用。ハイランド地方特有のミネラル豊富な軟水が、デュワーズの優しく滑らかな味わいの基盤となっている。
伝統の蒸留
木製のウォッシュバックで70時間もの長時間発酵を行い、その後銅製ポットスチルで二回蒸留。スペイサイドよりも大ぶりな蒸留器が、アバフェルディ特有の豊かな香味を生み出す。
熟成の妙技
バーボン樽を中心とした様々な樽での熟成により、蜂蜜とりんごを思わせる甘美な香りと、バニラやシナモンのスパイシーさが調和した複雑な味わいを実現。
ブレンディングの芸術
デュワーズの真髄は、40種類以上の異なるモルトウイスキーとグレーンウイスキーを巧みに組み合わせるブレンディング技術にある。アバフェルディをキーモルトとして、各原酒の個性を活かしながらも調和のとれた一つの作品に仕上げる。この技術は代々のマスターブレンダーに受け継がれ、デュワーズ独特の滑らかで飲みやすい味わいを生み出している。
特に「ダブルエイジング製法」と呼ばれる手法では、個々の原酒を熟成させた後、ブレンドしてさらに追加熟成を行う。この二段階熟成により、各原酒が見事に融合し、より深みのある味わいが完成する。
デュワーズ製品ラインナップ
2025年8月現在の価格情報
製品名 | 容量 | 参考価格 | 特徴 | 販売状況 |
---|---|---|---|---|
デュワーズ ホワイトラベル | 700ml | 1,400円〜1,680円 | スタンダードライン、ハイボールに最適 | 広く販売中 |
デュワーズ 12年 | 700ml | 2,960円〜3,200円 | バーボン樽熟成、なめらかな味わい | 定期販売中 |
デュワーズ 15年 | 700ml | 6,985円〜7,500円 | 複雑な香味、プレミアムライン | 限定販売 |
デュワーズ 18年 | 700ml | 12,980円〜13,530円 | 最高級ブレンド、ギフトに最適 | 高級酒店等 |
デュワーズ ジャパニーズスムース 8年 | 700ml | 2,900円〜3,500円 | ミズナラ樽後熟、日本限定 | 日本限定販売 |
おすすめの味わい方
- ストレート:18年や15年は常温でゆっくりと
- ロック:12年は氷で冷やして香りを楽しむ
- ハイボール:ホワイトラベルが最も適している
- 水割り:どの年代も日本人の味覚に合う
受賞歴・評価
- 世界180カ国以上で販売されるグローバルブランド
- アメリカ市場でのブレンデッドスコッチNo.1シェア
- International Wine and Spirit Competition 受賞多数
- 日本でのハイボール文化普及に大きく貢献
現代に受け継がれる伝統
現在のデュワーズは、バカルディ社の傘下でその伝統を守り続けている。アバフェルディ蒸留所は年間350万リットルという大規模な生産能力を誇りながらも、創設当時からの製法を頑なに守り続けている。木製のウォッシュバックでの長時間発酵、銅製ポットスチルでの丁寧な蒸留、そして何より「品質第一」という創業者ジョン・デュワーの哲学は、今なお脈々と受け継がれている。
特筆すべきは、日本市場への深い理解と適応である。「デュワーズ ジャパニーズスムース」では、スコットランドで熟成した原酒を日本のミズナラ樽でさらに後熟させるという、両国の伝統技術を融合させた革新的な取り組みを行っている。これは、トミー・デュワーが1891年にニューヨークでハイボール文化を広めたのと同様の、新しい市場への適応力を示している。
また、持続可能性への取り組みも注目される。蒸留所では再生可能エネルギーの導入、水使用量の削減、廃棄物のリサイクルなど、環境に配慮した生産活動を推進している。これらの取り組みは、次世代へと継承すべきスコットランドの自然環境を守るという、長期的な視野に立った経営方針の表れである。
デュワーズが紡ぐ物語
1846年、小さな酒商として歩みを始めたジョン・デュワーの夢は、息子たちの手によって世界的ブランドへと昇華した。アバフェルディ蒸留所という「聖地」を得たデュワーズは、ブレンデッドスコッチウイスキーの可能性を世界に示し続けている。
その味わいは決して威圧的ではない。むしろ、優しく滑らかで、初心者から愛好家まで幅広く受け入れられる包容力を持っている。これこそが、「みんなのウイスキー」として愛され続ける理由であろう。ハイボールという飲み方一つとっても、デュワーズは新たな文化を創造し、ウイスキーの楽しみ方を広げてきた。
スコットランド・ハイランドの美しい谷間で生まれ、世界180カ国以上で愛されるデュワーズ。その一滴一滴に込められているのは、創業者一族の情熱と、代々の職人たちの技術、そして何よりも「品質こそが全て」という不変の哲学である。
今夜、グラスに注がれる琥珀色の液体は、175年の歴史と伝統が織りなす、黄金の調和なのである。